【健康経営】プレゼンティズムとアブセンティズムによる労働生産性への影響
健康経営とは、従業員の健康管理を経営課題とし、企業が率先して取り組むことで従業員の健康増進と生産性向上を目指す経営手法です。
従業員の健康管理をコストではなく、投資として前向きにとらえ取り組むことで、従業員が健康でイキイキと働くことができ、生産性の向上をもたらし、企業イメージや業績向上が期待できます。
健康経営において注目したいキーワードが、プレゼンティズムとアブセンティズムです。
プレゼンティズムとは
プレゼンティズムとは、出勤はしてはいるものの何らかの健康上の問題により、パフォーマンスや生産性が低下している状態のことを言います。
寝不足で頭が働かず午前中はほとんど仕事が進まなかったり、1日中、軽い頭痛が続き仕事をする気になれなかった、といった経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
プレゼンティズムの原因の多くは「小さな不調」です。
・睡眠不足
・肩こり
・腰痛
・頭痛
・腹痛
・風邪
・花粉症
・メンタル不調
・生活習慣病
などがあげられます。
仕事はできるレベルではあるものの、だるさや痛み、不快感などの体調不良で集中力が続かず、仕事がはかどらなかったり、ミスを引き起こすなど、生産性の低下につながっている状態です。
アブセンティズムとは
アブセンティズムとは、健康上の問題により欠勤・休職をしている状態です。
プレゼンティズムと対になる言葉で、欠勤・休職に加え、遅刻・早退も含まれ業務に就けていない状態のことを言います。
仕事ができない状態なので、業務の停滞や周囲に迷惑をかけてしまい、結果的に組織全体としての生産性が下がります。
そして、この生産性の損失は、一見アブセンティズム(業務に就けていない状態)の方が多そうに思われますが、実際はプレゼンティズムによる影響の方が大きく、アブセンティズムの3倍以上もの損失があるとされています。
健康関連コストの最大はプレゼンティズム「見えないコスト」
健康に関連する企業の総コストを考える時、医療費に加え労働生産性の損失費用を含めた、総額で捉えらえるようになってきました。
こちらの図は、アメリカのある金融機関の研究データですが、従業員の健康関連コストの全体構造を示しています。
この図からも、医療費は全体の約25%にすぎず、最大のコストはプレゼンティズム(出勤はしてはいるものの何らかの健康上の問題により、パフォーマンスや生産性が低下している状態)であることがわかります。
またアメリカの上記研究を元に、日本の組織でも同様に健康関連総コストを算出した結果、同様の結果が得られたということです。
プレゼンティズムが医療費を上回るきわめて大きなコスト要因であるということが明らかになっています。
高齢化が進む社会において、企業にとって医療費を削減することは大きな問題の1つですが、医療費は総コストの一部分にすぎません。
プレゼンティズムは「見えないコスト」と呼ばれています。医療費のように実際に費用が発生するわけではありませんが、社員の体調不調やパフォーマンスの低下により失われるコスト。
これは企業にとって大きな損失となります。
健康経営では、プレゼンティズム・アブセンティズムによる仕事の生産性の低下を抑制することが求められます。
1人あたり年間76万円の損失:健康状態が悪い人ほど生産性損失は増
東京大学政策ビジョン研究センターと横浜市経済局による、中小企業の従業員を対象とした労働生産性損失と健康リスクの関係を調査した研究があります。
こちらの研究では、健康リスクを下記9つの項目で評価しています。
①不定愁訴の有無(不定愁訴とは病気やけがなどで体の具合の悪いところがある状態)
②喫煙
③アルコール
④運動習慣
⑤睡眠休養
⑥主観的健康感
⑦家庭満足度
⑧仕事満足度
⑨ストレス
その結果、体調不良などによる従業員一人あたりの労働生産性損失は年間76.6万円と推計されました。
その内訳は、アブセンティズムコストは一人あたり年間 3.6 万円、プレゼンティズムコストは一人あたり年間 73.0 万円。
プレゼンティズムに占める割合が非常に大きいですが、この研究では生活習慣や健康状態が大いに関連しており、健康状態の悪い健康リスクの高い従業員ほど、労働生産性損失は大きくなる傾向があるということが明らかになったということです。
プレゼンティズムの改善に取り組む健康経営
プレゼンティズムの問題を改善していくためには、健康リスクを下げるために健康状態を整える必要があります。
プレゼンティズムには人により様々な問題がありますが、一人ひとりが生活習慣を見直し改善していくことが大切です。
また企業側の取組みが大きな改善策となります。
定期健康診断の受診にとどまらず、有所見者への再検査実施の勧奨などその後のフォローが、病気発症の予防につながります。
長時間労働の問題は、疲労が蓄積し不眠やメンタルヘルス不調をもたらすだけでなく、脳血管疾患や心血管疾患などの重篤な病気につながるリスクが高まることが明らかになっています。
メンタル不調を予防するためにはストレスチェックの実施やチェック結果の活用が必要です。
さらに職場環境を整え働きやすい職場を作ること、上司を含めたコミュニケーションを図ることも大切な要素です。
デスクワーク中心の業務が多い人は、肩こりや腰痛、頭痛の問題も見過ごせません。
健康状態がいつも良い状態を維持できれば、仕事への集中力も高まり一人ひとりのパフォーマンスが高まります。
そのためにも健康経営では、プレゼンティズム対策が具体的な施策として重要な役割を果たすこととなります。
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